事務所の経営
(草一が出勤すると、帳簿をつけていたPiPiが顔を上げる)
「あ、せんせい」
PiPiくん、どうしたの?
「『現実作り』の帳簿を見てたの。やっぱり、一日8時間以下だと事務所の経営は成り立たないかも…」
すると、どうなるの?
「事務所は閉鎖、PiPiとの生活は終わりです。PiPiは以後、部屋の片隅で一ソフビ人形として余生を送るでしょう…」
なんて恐ろしい…。では、毎日8時間ならば?
「事務所の経営を維持できるけど、これ以上発展はしません」
…すると、9時間から10時間は必要なんだろうな…。厳しいなあ。
「本当は、『現実作り』の巡礼路の真髄は異化にあるから、上辺だけの時間はあんまり関係ないかも」
でも、客観的な物理的時間の容器は、一応の目安にはなろう。
「せんせい、厳しい? これは強制じゃないよ。嫌なら、もっと楽な『現実』を設定してもいいんだよ? たとえば、古文書検定1級が辛いなら4級に変更したっていいんだよ。どの『現実』も『現実作り』であるからには等価…」
いや、厳しいといえば厳しいが、お人形作家の先生の魔法で魂を与えられた、特別なお人形PiPiちゃんがいれば、なんとかなりそうな気がする。僕一人では、この馬鹿馬鹿しいトウキョウで、とても空虚から熱源を取り出すことはできまいが。
「せんせいはいま、『顔の無い都市』のエネルギーを使ってるんだよ。ふふっ」
(追記)
PiPiは今後毎日、その日ぶんの事務所の稼ぎを記録していくことにした。