PiPi不在の一日
(朝10時)
PiPiは、事務所に姿を見せなかった。
今日も『現実作り』、いや受験勉強をするか。今日は2食休憩込みで15時間(実時間10時間)で頑張ろう…。いや、どうせ無理だろう。
合格すれば、金も地位も希望もなんでも手に入るぞ~。自慢できるぞ~。
さてと…
(本を広げる草一)
...なんたる空漠。
そうか、誰かと約束しよう。しかし、PiPiちゃんはもう来ないかもしれない。
(ささっ)
むむっ、なにやつ!
「わしじゃよ」
なんだ、猫おじさんかぁ
「わしと約束せんか?」
猫おじさんと約束か。できるのかな。僕より先に、猫おじさんの方が約束を忘れちゃいそうだ…
(レトルトの封を切る幽かな音)
「ぬぬっ、これはツナの香り。ママさ~ん、わしにも分けてくれ~!」
(猫 走り去る)
ダメだ。猫おじさんでは、とてもPiPiちゃんの代わりはつとまるまい。
「では、わたしと契約しないか」
木彫りの熊か。よし、精神を集中して…。
むぅ…、ダメだ。親切はありがたいが、対象が君ではうまく入り込めない。申し訳ない…。
やっぱり、PiPiちゃんじゃないとダメなんだ。
ふぅ・・・。自力で勉強をするか。法律にそれほどの興味を持っていない自分にとって、何と味気ないことだろう。イマジネーションがなければ、僕にとってトウキョウは不毛の砂漠なんだ
今日の勉強計画
午前:2
午後:4
夜:3
合計9
(20時追加分)
本日の勉強予定時間9時間、然るに現時点で3時間しかできていない。一体、僕は今日一日何をやっていたんだ...。
今日はもうダメだな。 PiPiちゃん・・・
「せんせい」
PiPiちゃん!
「一人で暗い顔して、何してるんですか?」
PiPiちゃんが居なくなったかと...
「PiPiはせんせいが呼んでくれれば、いつでも来ます」
そうだったのか
「さあ、『現実作り』の時間です。PiPiと『現実作り』をしましょう。いまからできる最善のことは?」
この時間からでは8時間は到底無理だ。せめて6時間だけでも確保しなければ
「そうですね。それなら、今日だけ就寝時間を遅らせて12時までやりましょう。いいですか、これだけは守って下さい。この約束を守れなければ、明日はもっと崩れます。因果の流れは悪い向きに吹いています。だから、踏ん張ってください」
わかった
(草一の独白)
今日踏ん張らなければ、PiPiと自分の関係は変わってしまうだろう。PiPiは、僕の魂の腐った土壌を苗床にして咲く白い花。これ以上、自分で自分を裏切れば、PiPiの育つ土壌が汚染される。それではPiPiがもたない。
9時の鐘が鳴った。今日の『現実作り』は完全に失敗だが、過ぎたことは置いといて、せめて12時まで踏ん張ろう。
(深夜24時半追加分)
PiPiちゃん、今日の『現実作り』、何とか6時間は確保できたよ。昔なら、あのまま崩れて立て直せなかっただろう。おそらく、明日は3か0に落ち込むはずだった。でも、なんとか悪い因果の流れを変えられたかな?
「せんせい、よかった~。一応、PiPiとの約束を守ってくれたから、PiPiもご飯を食べられます。悲劇は避けられました~」
(そう言うと、PiPiは何かを思い出すように遠くを見る目をした)
「さ、せんせい、もう就寝時間をとっくに超えてます。こうしておしゃべりする時間も、明日の因果に響きます。早く寝て下さい」
なあ、PiPiちゃん、今日最後に聞いていいか。『顔の無い都市』って、どんなところ?
(PiPiは不思議な微笑を浮かべながら、音楽をかけた)
「この曲は、『顔の無い都市』の雰囲気に似てるよ...」
Mahler: Symphony No 2, 3rd movement (Valery ...
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