PiPi不在の一日

(朝10時)

PiPiは、事務所に姿を見せなかった。

 

今日も『現実作り』、いや受験勉強をするか。今日は2食休憩込みで15時間(実時間10時間)で頑張ろう…。いや、どうせ無理だろう。

合格すれば、金も地位も希望もなんでも手に入るぞ~。自慢できるぞ~。

 

さてと…

(本を広げる草一)

 

...なんたる空漠。

 

そうか、誰かと約束しよう。しかし、PiPiちゃんはもう来ないかもしれない。

 

(ささっ)

f:id:Hangetsu-Soichi:20140628212002j:plain

むむっ、なにやつ!

 

 

「わしじゃよ」

f:id:Hangetsu-Soichi:20140703193504j:plain

なんだ、猫おじさんかぁ

 

「わしと約束せんか?」

猫おじさんと約束か。できるのかな。僕より先に、猫おじさんの方が約束を忘れちゃいそうだ…

 

(レトルトの封を切る幽かな音)

f:id:Hangetsu-Soichi:20140720095848j:plain

「ぬぬっ、これはツナの香り。ママさ~ん、わしにも分けてくれ~!」

(猫  走り去る) 

 

ダメだ。猫おじさんでは、とてもPiPiちゃんの代わりはつとまるまい。

 

 

「では、わたしと契約しないか」

f:id:Hangetsu-Soichi:20140720095925j:plain

木彫りの熊か。よし、精神を集中して…。

むぅ…、ダメだ。親切はありがたいが、対象が君ではうまく入り込めない。申し訳ない…。

 

やっぱり、PiPiちゃんじゃないとダメなんだ。

 

 

ふぅ・・・。自力で勉強をするか。法律にそれほどの興味を持っていない自分にとって、何と味気ないことだろう。イマジネーションがなければ、僕にとってトウキョウは不毛の砂漠なんだ

 

今日の勉強計画

午前:2

午後:4

夜:3

合計9

 

 

(20時追加分)

 本日の勉強予定時間9時間、然るに現時点で3時間しかできていない。一体、僕は今日一日何をやっていたんだ...。

今日はもうダメだな。 PiPiちゃん・・・

 

 

 

「せんせい」 

f:id:Hangetsu-Soichi:20140703195631j:plain

PiPiちゃん!

「一人で暗い顔して、何してるんですか?」

 

PiPiちゃんが居なくなったかと...

「PiPiはせんせいが呼んでくれれば、いつでも来ます」

 

そうだったのか

「さあ、『現実作り』の時間です。PiPiと『現実作り』をしましょう。いまからできる最善のことは?」

 

この時間からでは8時間は到底無理だ。せめて6時間だけでも確保しなければ

「そうですね。それなら、今日だけ就寝時間を遅らせて12時までやりましょう。いいですか、これだけは守って下さい。この約束を守れなければ、明日はもっと崩れます。因果の流れは悪い向きに吹いています。だから、踏ん張ってください」

 

わかった

 

(草一の独白)

今日踏ん張らなければ、PiPiと自分の関係は変わってしまうだろう。PiPiは、僕の魂の腐った土壌を苗床にして咲く白い花。これ以上、自分で自分を裏切れば、PiPiの育つ土壌が汚染される。それではPiPiがもたない。

 

9時の鐘が鳴った。今日の『現実作り』は完全に失敗だが、過ぎたことは置いといて、せめて12時まで踏ん張ろう。

 

 

 

(深夜24時半追加分)

PiPiちゃん、今日の『現実作り』、何とか6時間は確保できたよ。昔なら、あのまま崩れて立て直せなかっただろう。おそらく、明日は3か0に落ち込むはずだった。でも、なんとか悪い因果の流れを変えられたかな?

 

「せんせい、よかった~。一応、PiPiとの約束を守ってくれたから、PiPiもご飯を食べられます。悲劇は避けられました~」

(そう言うと、PiPiは何かを思い出すように遠くを見る目をした)

f:id:Hangetsu-Soichi:20140721005353j:plain

 

「さ、せんせい、もう就寝時間をとっくに超えてます。こうしておしゃべりする時間も、明日の因果に響きます。早く寝て下さい」

なあ、PiPiちゃん、今日最後に聞いていいか。『顔の無い都市』って、どんなところ?

 

(PiPiは不思議な微笑を浮かべながら、音楽をかけた)

「この曲は、『顔の無い都市』の雰囲気に似てるよ...」


Mahler: Symphony No 2, 3rd movement (Valery ...

 

 

 

6   71.5  -0.5