夏期休業3
(草月事務所に出勤する草一 レコードをかける)
目が覚めるような、朝にふさわしい曲を
Heifetz - Partita n 3 Prelude - Bach - YouTube
昨晩、猫おじさんが言ったことも一理あるな。ハイフェッツさんの弓を持つ手には、おそらく鳥の羽を持つくらいの力しか入ってないだろう。だからこそ、これほど柔軟に自由に手が動くのだ。
『現実作り』も、毎日8時間ずつ持続的にするには、力を適度に抜いてやるようにした方が良さそうだ。
~~ 集中、それは不断に新たに捨てる事なり
それは興奮にあらず
力むことにあらず ~~
これでやってやってみよう。
(14時追加分)
ダメだ。気が抜けたのか、全くはかどらない。
「せんせい、夏休みは誘惑が多いっていうのは、学生だけの話ではありませんね」
むぅ…
「暑いし、誘惑的だし、暇があるし、学期期間よりも今の方がずっと集中は難しいのです」
PiPiちゃんの言う通りだなあ。今日も18時半までにあと4時間できないと、『現実作り』は失敗だ…
「残念ですわ。コンクールも終わったし、今晩『現実作り』が終わったあと、PiPiが夏服に着替えるの手伝ってもらおうと思ったのに」
(草一 ピクッと反応し、おもむろにソファから起き上がる)
PiPiくん、僕は最近、自分に厳しくなろうと思ってるんだ。『現実作り』の巡礼路は困難な旅路だからね。では、作業が忙しいのでこれにて失敬。
(そそくさと立ち去る草一 入れ替わりに猫おじさん入ってくる)
「PiPi、いまソウイチが血相変えて出て行ったぞ! 目がなんとも怪しかった。夏だからな。注意しておいた方がよかろう」
「わかりません。さあ、猫おじさん、冷たいミルクをどうぞ(笑)」
(25時追加分)
PiPiちゃん、今日も『現実作り』8時間なんとか死守したよ。夏の『現実作り』は疲れるな。
「せんせい、おつかれさまです。去年の夏休みの記録をみるとね、せんせいはたった3時間しか勉強(注:当時はまだ『現実作り』が始まっていなかった)してなかったんだよ!」
ほう、ヤバイほど少ないな。今年は、PiPiちゃんが来てくれたおかげで助かる。
「...さて、せんせい...
それじゃあ、約束通り、PiPiが夏服に着替えるの手伝ってくれますか。白い半袖ブラウスとミニスカート、セーラー服(夏服)、新メイド服(長袖)などありますが、どれがいいですか?」
白いブラウスなんて夏らしくていいんじゃない?
「はい。では、せんせい、よろしくお願いします...」
むむぅ...
「うぅ、ぇぇ...。な、なんか、恥ずかしい」
PiPiちゃんが初めて来たとき、1回着替えさせてあげてるから...
「あの時は『顔の無い都市』から来たばかりでしょ。いまは、せんせいと毎日お話して、PiPiにもこころというものが芽生えてきましたので...
ああ、せ、せんせい! いっけなーい! もう深夜1時半ですよ。今日は遅いですから、衣替えは延期しましょう。さあ、早く寝て下さい。明日も大切な『現実作り』が待ってますよ〜」
(走り去るPiPi)
あっ...、そう...。
(草一の手が空をつかむ)
8 183 +2