草一失踪中の事務所 PiPiと猫おじさんの日常
(猫おじさん 草一が失踪したのをよいことに、草月事務所に入り浸っている)
「なあ、PiPi。ソウイチがおらんと、写真を撮る人がおらんから、物足りんじゃろう。わしが代わりに撮ってやる。カメラを貸してみろ」
「別に、いいですよぉ」
「いいから、貸して見ろ。ホレ、ホレ。...よーし、撮るぞ」
「猫おじさんたら、しょうがないんだから」
(パシャ)
(パシャ)
「もう! 猫おじさん、なんで変な写真ばっかり撮るの?」
「仕方ないじゃろ、生まれつき猫背なんじゃから。デジカメはだめだ。昔ながらのフィルムのカメラはないか」
「どれで撮っても同じよ」
「いやいや、フィルムのカメラがいい!」
「じゃあ、これ貸してあげる。もう、撮るのは次で最後にしてよね。これじゃ、仕事になりゃしない(プン、プン)」
「よーし撮るぞ。PiPi、笑え!」
(パシャリ!!)
「最高の1枚が撮れたぞ~。明日、現像に行ってこよう」
番外編 猫仙人との修行の日々(8日目~)
帝暦○年8月21日 猫仙人との修行8日目 尾根縦走行程5日目
( Photo by (c)Tomo.Yun ttp://www.yunphoto.net )
猫仙人、茂みの中から現われる
「ソウイチ、昨日で7日間の尾根縦走のうち4日目まで完了した。気分はどうじゃ?」
正直、PiPiちゃんとの約束を連日破り続けた過去があるので、8時間×7日間の行程は自分には無理だと思っていました。それが、ここまで来れたのは、猫仙人様の指導のおかげです。
この夏の課題は、(カフェなどに行かず)自室で徹底的に自分と向き合うことでした。我が部屋を囲む6面の白壁には、様々なしみが浮かんでおり、いにしえの宗教書などにも書かれている砂漠の悪魔ならぬ、白壁の悪魔となって、朝から晩まで様々な誘惑(怠惰、間食、コーヒー、ネット、メール、不安、焦り、幻、PiPiのお色気等々)をしかけてきました。それを一つ一つ切り捨てて、毎日8時間の『現実作り』の巡礼路を歩くのは大変でした。
集中力を取り戻すのに最も役立ったのは、『対白壁の悪魔チェックシートでした』
~~集中とは、不断に湧き上がる想念を、不断に新たに捨て続けることなり ~~
たとえば、『現実作り』中に、ネットを見たいとか間食しようという雑念が起こるのは仕方がありません。それを5秒くらいで諦めて流し去ることができれば○をつけます。逆に、その雑念に囚われて実際にネットを見てしまったり、間食してしまったら×をつけます。
○×はそれほど厳密ではなく、大雑把で主観的なものです。3回中2回は○になるようにしています。×ばかりになると、チェックする気が起きなくなるので、多少甘く○をつけて、自分を鼓舞してもよいと思います。
はじめは連敗につぐ連敗で×だらけでしたが、できるだけ3戦2勝を目指しているうちに、自然と集中力が付いてきました。
あと、疲れてきた時には白壁の悪魔の猛攻が始まるのですが、そんな時は、頭ではなく、めくるページや走らせるペン先に集中しました。なんとか自分をなだめすかして、息を整えて目の前のページにかじりつくのです。
「よかろう。今後は、たとえ肉体が疲弊して白壁の悪魔が優勢になった場合でも、なんとかしのいで体調回復の時機をうかがう技を身につけるとよかろう。最終的には、『現実作り』10時間/日+運動1時間を目指せ」
ギクッ...。ちょっと、厳しすぎるな...。
「なんか言ったか?」
いえ、なんでもありません。
「さ、今日も歩き始めよう。今日失敗すれば、いまの我々の会話も無駄になる。油断は決してするな。歩くぞ」
(二人は、更なる奥地へ入っていった)
.........尾根縦走5日目/7日 16時半
( Photo by (c)Tomo.Yun ttp://www.yunphoto.net )
猫仙人、待って下さい。
「どうした?」
速すぎてついて行けません。さすがに5日目になると、連日の暑さで疲弊し、縦走行程の新鮮みも薄れてきました。今日は全くやる気が出ません。
「おぬしがやる気が出ないのも、無理はないのぅ。旧来の因果の流れに浸かっておれば、そろそろ飽きが来て、投げ出す頃じゃ」
とにかくやる気がでないんです。頭もモチベーションもスカスカです。
「ソウイチよ、おぬしの頭がやる気がしないからと言って、1頁めくればその分ページさんは喜んでくれるし、一行書けばペン先くんは喜んでくれよう。おぬしのやる気と関わりなく、時間さんは充実感に満ち、『現実作り』の巡礼路は生命力を取り戻すだろう。
おぬしの頭が生み出す感覚・感情が、『現実作り』の巡礼路の全てを支配していると思うな」
やる気がでないとしても、淡々とページをめくり、ペンを走らせ、『現実作り』を続けよ、ということですね。
「そうじゃ。旧来の因果にどっぷり浸かりながら、頭の中だけで『変わろう』『成長しよう』と思っていても、抜け出すのは難しい。めくるページ、指先、走らせるペン、巡礼路を歩く足の筋肉、過ぎゆく時間も、おぬしの『現実』を作っているのじゃ。頭がやる気をださんでも、それらを駆使して、自分をなだめすかして歩かせろ。できるか?」
試してみます。今後の巡礼路でも、やる気が出ない日は何度でも訪れるでしょう。その度に放棄してたら、それこそ一生今の因果から抜け出せそうにありません。猫仙人の方法をいまから試してみます。
「よろしい、先へ進むぞ」
(二人は更に深い森へと入っていった)
.........野営ポイント 夕食後
( Photo by (c)Tomo.Yun ttp://www.yunphoto.net )
猫おじさん、いや、間違えました。猫仙人...
「わしと猫おじさんを間違えるとは、かなり疲れがたまっておるようじゃな」
はい。疲れました。頭が働きません。今日は、だめかもしれません。
「ソウイチよ、おぬし、『5日も頑張ったんだから、もうそろそろ充分だろう』などと思っとらんか? 5日目で脱落しようが、初日で脱落しようが、失敗は失敗じゃぞ。それでよいのか? 夏の終わりも近い。今失敗すれば敗北の夏として記憶に刻まれることになろうな...」
猫仙人も意地がお悪い。しかし、本当に疲れました。このままでは明朝まで体力が持ちません。
「そう思うならば、今すぐ就寝せよ。状況に応じて、常に柔軟に対応するのじゃ」
わかりました。
(二人は仮眠に入った)
.........深夜
(草一 すっかり疲弊している)
猫仙人、ちょっと待って下さい。歩くのが速すぎます。今日は辛いです。頭も重く、目も疲れています。まして、朝4時まで休憩なしでぶっ続けで『現実作り』をしなければ、間に合いません。もうダメかもしれません。
「馬鹿者! 喝! 明朝4時まで4時間あって、『現実作り』も残り4時間なら、何が不可能なものか。今後、トウキョウに戻ってからも、辛い『現実作り』の巡礼路は続くのじゃぞ。そんなことでは、とうていPiPiを養ってゆけんわい。おぬし、逆にPiPiに喰われるぞ」
はぁ...
「辛くなった所からが本当の勝負じゃ。さあ、サンティアゴ巡礼路の写真でも広げて見ろ。これでおぬしも巡礼気分。辛くとも歩け、歩け」
.........朝四時半
猫仙人、『現実作り』終りました。今日は集中力があまりにも低く、8時間やったとは言えない部分があります。
「まあ、よい。疲れたなりに机にかじりついて、放棄しなかったことは誉めてやろう。オマケして8時間認めてやろう。明日のために、ゆっくり休まれよ」
8日目 尾根縦走行程5日目/7日 8 293 -14
猫仙人との修行9日目 尾根縦走6日目/7日
( Photo by (c)Tomo.Yun ttp://www.yunphoto.net )
「ソウイチ、体調はどうじゃ?」
疲れていますが、昨日ほどではありません。とはいえ、尾根縦走にも慣れて新鮮みが薄れてきたことと重なって、ついダラダラと座り込みたくなります。
「こういう時は、かえって魔の時間じゃ。『それほど疲れていないから、まだ大丈夫だ』と思って油断して、座り込んだが最後、そこから動けなくなるぞ。こう言うときこそ、ゆっくりでいいから、自分をなだめすかして歩き続けるのじゃ」
早朝5時
疲れました。疲れてほとんど座ってるだけの状態でした。頭が全く働きませんでした。
9日目 尾根縦走行程6日目/7日 8 301 -14