枕元に立つ猫仙人

「おはようございます。あ、せんせい昨日徹夜して、まだ寝てらっしゃるんだわ。しぃ...」

...... ... .。

（草一が寝ていると、夢に伝説の猫仙人が立っていた）

　うぅむ、ムニャムニャ...。あっ！　あなたは伝説の猫仙人...

「ソウイチよ、真のイマジネーションを扱う者、守るべき鉄則はいかに？」

　全身全霊、何物に代えてもイマジネーションの存在（要するに、PiPi）と交わした約束を守ることです。

「ふん、相変わらず、おぬしは言葉をもてあそぶ癖があるな」

　はっ、すみません。

「言葉は打ち出の小槌ではない。いくら言葉を積んでも、『顔の無い都市』のパワーは引き出せぬわい。イマジネーションを相手にするつもりなら、言葉遊びは慎む事じゃ」

　心しておきます。

「さて、ソウイチよ。人は直接に現実に触れることはできんと思わぬか。現実は、決して触れることのできぬ幽霊のような存在じゃ」

　おっしゃる通りです。日々口にする食物の汚染濃度すら分からぬまま、目隠しで食べているようなものです。ネットニュースから島がどこの国の領土かわかりましょうか、世間常識から自分がいま幸せかどうか分かりましょうか。果たして、どんな現実が分かるというのでしょう。分かったつもりでも、その実、皆と同じ目隠しをつけて安心しているだけではないでしょうか。しかし、この現実の曖昧な霧の向こう、等身大の『現実』だけは確かに掴める気がします。

 　他人との関係もそうかも知れない。自分の『現実』を通して、やっと他人と出会えるのかもしれない。『現実作り』を通してこそ、僕は人と出会えるのかもしれない。これも、言葉遊びかもしれませんが。

「いや、至ってシンプルな答えじゃで。わしは恋愛のことは詳しくないが、例えば、ある男が肉体派のスポーツマンを目指してトレーニングするなら、それがその男の『現実作り』よの。そして、ピアニストではなくスポーツマンという自分の『現実』を達成したところで、次に、ピアニストではなくスポーツマンが好きなおなごが現われて、その男に惚れる。だとすれば、永遠の恋人も自分の『現実』を通じてやって来ることにならんか？　その一方で、『現実』から漏れた対象、つまりピアニストや画家が好きなおなごは、その肉体派の男と現実に街角ですれ違ったとしても、ついぞ出会わずに終るじゃろう。あらゆる現実に触れたいと思うのは、人の能力を超えている。空中霧散するのがオチじゃ。しかし、等身大の自分の『現実』を設定し、頑なに『現実作り』を続けるなら、いつか『現実』を捕らえられるように思わぬか」

　わたしはよくわかりませんが、そういうのも興味深いですね。

「いや、生涯独身じゃったわしが、柄にもないことを言うてしもうたわい...」

 　あいまいなこの世界の中にあって、僕は『現実作り』を通して、確かなものを掴みたい。『現実作り』を通して、他人と出会いたい。

　いま僕にできるのは『現実作り』だけです。無力な身分で、人を直接に助ける力もない。せめて『現実作り』をすることで、祈りに代えて、自分の気持ちを表現したいと思います。勝手な思い込みですが、『現実作り』を毎日毎日、変わらずに達成しつづけることを通じて、観念上の巡礼の相棒を勇気づけたいと思うのです。料理もできなければ、絵も描けませんから、『現実作り』でしか、誰かのために『顔の無い都市』のパワーを運んで来てやることはできないのです。物理と科学が支配するこのトウキョウに、そんなエネルギー源が存在するのかどうか、わたしにもわかりませんが、ただ頑なに『現実作り』をするしか...ムニャムニャ...、スヤスヤ...

.......

No.5 - 6 BWV 244 BACH Matthew Passion Alto ARIA ...

 「せんせい、目が覚めましたか...？」

 9/19の『現実作り』：8時間　総計458.5時間　借金-25.5時間
推移：8 ⇒ 6 ⇒ 6 ⇒ 8 ⇒ 5.5 ⇒ 8 ⇒ 8 ⇒ 8 ⇒ 8

9/20『現実作り』：8時間　総計466.5時間　借金-25.5時間

推移：8 ⇒ 6 ⇒ 6 ⇒ 8 ⇒ 5.5 ⇒ 8 ⇒ 8 ⇒ 8 ⇒ 8⇒ 8