メリイクリスマス

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芥川龍之介『少年』より)
――少女はあいかわらず編みものの手を動かしながら、落ち着き払った返事をした。
「ええ、それは知っているわ」
「ではきょうは何の日ですか? 御存知ならば云って御覧なさい」


 少女はやっと宣教師の顔へみずみずしい黒眼がちの眼を注いだ。
「きょうはあたしのお誕生日」
 保吉は思わず少女を見つめた。少女はもう大真面目に編み棒の先へ目をやっていた。しかしその顔はどう云うものか、前に思ったほど生意気ではない。いや、むしろ可愛い中にも智慧の光りの遍照した、幼いマリアにも劣らぬ顔である。保吉はいつか彼自身の微笑しているのを発見した。
「きょうはあなたのお誕生日!」
 宣教師は突然笑い出した。この仏蘭西人の笑う様子はちょうど人のいいおとぎばなしの中の大男か何かの笑うようである。