PiPiちゃんとの約束 事の顛末2
午後8時現在 冷たい雨
「『現実作り』どうですか。私との最初の約束、守れますか?」
(草一の独白)
朝からやって、まだ3分の1しか進んでいない。進行状況は厳しい。 しかし、フィクションとの約束を破ったら、それまでよ。空想は、都合のよいオママゴトに堕してしまう。
空想は、金や物とは違って自分の思い通りになるだろうか? たとえば、この世の終着点のような退廃的な売春宿のベッドの上に、だらしなく寝そべっている男がいて、酒に沈溺しながら心の中で「よし、明日から仕事をバリバリ10時間頑張るぞ!」と空想したとして、本当に翌日から有能な事務員に生まれ変われるだろうか? そうはなるまいよ。空想は、無から有を出す打出の小槌ではない。空想で現実は変わらない。
空想が現実に干渉する力を持つとしたら、それはある方法によってだろう。つまり、空想と現実を交錯させて、フィクションの存在との間で交わした約束を現実に守る。その繰り返しだ。これは仮説だが、試してみる価値はある。ミクが言っていた、『顔の無い都市』の力をトウキョウに移転させる方法...。空想に真剣に向き合えばこそ、空想は本物になるだろう。逆に、空想に対して不誠実であれば、「あの扉」は永久に開かないだろう。
「ねえ、せんせい。ねえ、ってば!」
(決意のうえ顔を上げる草一)
PiPiちゃん、ならば僕は、君との約束を果たそう。たとえ、今日何時までかかっても。
「先生、それが『現実作り』だよ!」