最近の半月草一の生活
草一のやつ、部屋で何を騒いでおるんだ。
「猫おじさん、ランプを取り付けてみたんだよ」
「ほう、これはまた悪くないのぅ」
「ランプの下でさっそく小説製作か? 最近は家に帰るなり、こればっかりじゃな」
「『顔のない都市』と『帝都』の物語を完成させなければならないからね。特別に猫おじさんも出演させてあげよう」
「出演料は『三つ星ジュレ』5で頼むぞ。PiPiの出演はないのか?」
「PiPiちゃんは……」
「PiPiちゃんは、重要な天使枠で出演かな」
北方の小さな事務所から『帝都』の事務所へと移った半月草一の修業時代
半月は『帝都』のある法律事務所で働いていた。コーヒーを淹れ、執務室で一息ついたところで窓の外を見る。眼下にそびえるビル群。
PiPiちゃんと猫おじさんはちゃんと留守番しているだろうか……
『現実作り』の巡礼路 再開
コンコンコン…(ドアを叩く音)
「あら? どなたかしら……。きゃあ!」
半月草一、ドアが開くなり雪崩れ込み倒れる。
「PiPiちゃん、水を、くれ……」
「PiPi、どうした!」
「せんせいが、戻ってきたの!!」
「猫おじさん、これを……」
半月、ポケットから何か取り出し、猫おじさんに手渡す。
「なんじゃ? 金貨チョコレートか?」
「これだけは守って帰ってきたよ。猫おじさんの懐に隠しておいてくれ……」
「お水です。さあ、飲んでください。落ち着きましたか。雪と氷の国へ行ったはずなのに突然戻ってくるなんて。せんせい、一体どうしたんですか?!」
「今日から、ここで草月事務所を開業する。このために長い巡礼路があったんだ。どうせなら、みんなと一緒にここで苦労するのがいい。そう気がついたんだ……」
「それじゃあ……」
「………。」
「今日から、草月事務所の成功を『現実作り』に設定する。そして、いまここから『現実作り』の巡礼路を再開する……」
バタリ。半月、倒れる。
「えっ?!」
「なぬっ?!」
PiPi「やったー!」
猫おじさん「万歳、万歳! 今宵は宴だ。あ、よ~いよい♪」
「よ~いよい♪」
「わしは、ずっとその方が良いと思っておったのじゃ。これからは帝都のやつらなど何処吹く風で、お前の道を行けばいい。そうじゃろう?」
先生はこちらです
せんせいはこちらでくだらないツイートをしています。
修行時代は無味乾燥。とっても安い学生下宿に住んでいて、そこには朝ご飯と夜ご飯がついてくるから、毎日飲みに行ったりせず、直行直帰なんですって。
朝ご飯のときには、セーラー服をきっちり着た女子高生が、同じ食卓の向かい側で味噌汁を飲んだりしていて、「将来、小説を書くときの参考になるだろう」ってせんせいは手紙で書いてました。
PiPiちゃんのお留守番
みなさん、お久しぶりです。PiPiです。
寒い日が続きますね。いかがお過ごしですか。
最近は猫おじさんも寝ているばっかりです。
さて、先生はいま、私たちの「草月法律事務所」を設立するために、雪と氷の国へ1年間の修行に出ています。
先生は、「かならず1年で帰ってくるから」と言ってPiPiにお留守番を命じました。だから、私は遠い空の下から先生を応援しているってわけです。
これが先生の今のお部屋なんだって。
机の上のイラストは、大石竜子先生に直筆で描いて頂いたキーアちゃん。そういえば、PiPiに似てますね。
修行は非常に厳しく、毎日、5分、10分おきにボスから怒りのメールが届いて、20分おきに怒鳴られ、メールの束を投げつけられて床を這いつくばって拾ったりもしているそうです。
想像とは全然違う世界だったようです。
でも、これが私たちのゴールじゃありませんから。先生は更に先へ進むために、一年限りの通過点として今の所で修行しています。だから、絶望はしていないそうです(疲れるとは言っていましたが)。
小説も少し書いているみたいです。主人公は先生と同じ名前の半月草一。PiPiや猫おじさんも出てくるそうです。ヒロインはPiPiではありませんが、PiPiもとても重要な役割で出てくるんだって。まだ製作中ですが、もしよろしければ読んでみて下さいね〜。
PiPiでした〜!
最終大戦終結。そして、『現実づくり』の巡礼路はつづく。
ある秋の午後、郵便馬車が草月事務所へと急いでいた。
うむぅ……。スヤスヤ、ウマイウマイ。
ドンドン(戸を叩く音)
郵便送達官「半月先生、いらっしゃいますか。王宮からの伝令です。至急出頭をお願いします」
PiPi「お茶を淹れて……、あら? 騒がしいわね。なにかしら」
郵便送達官「これはPiPiちゃん。今日も可愛いね! こちらの親書を半月先生に。至急王宮までご出頭下さい」
「王宮からの親書?」
「あっ!」
「ちょっと、猫おじさん起きて! たいへんよ!!」
「な、なんじゃ? エサの『三つ星ジュレ』の箱がもう届いたのか?」
「そんなんじゃないわよ! この郵便を見て」
「三つ星ジュレ以上に重要な郵便物なんてあるのかね? あっ!!!」
「これは忙しくなるぞ! いくさの準備だ」
「もう、猫おじさん。こんな時に食べてどうするの?! すぐに先生に知らせなきゃ」
「わかった」
帝都司法省
半月草一は証書を授与された。これにより長きにわたる最終大戦は終わったのである。
(庭のあるレストランで)
「PiPiちゃん、猫おじさん、いままでありがとう!」
(猫おじさん、黒ビールとステーキを楽しみながら)
「で、これからどうするのじゃ?」
「まずは司法修習を受けるため、全国各地の裁判所へ配属されます。そのあとは……」
「そのあとは………?」
(半月、微笑しながら)
「ふふっ。もちろんトウキョウへ戻ってきますよ!」
「せんせい……!!」
半月「みんなで一緒に本当の草月法律事務所を作りましょう!!」
(一同喝采)
わぁーっ!!!
こうして半月草一とPiPiちゃんと猫おじさんの『現実作り』の巡礼路は完成した。いや、まだこれからが本番なのかもしれない。
トウキョウの片隅のアパートの一室。草月法律事務所はひっそりと開いている。その先生の机の上には、皆を見守るようにいつもPiPiちゃんが立っているといいます。
『現実作り』の巡礼路 ~~おしまい