(特別編)『顔の無い都市』のミク 草一の前に現る

「いらっしゃいませ。PiPi紅茶ショップへようこそ」

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「外は氷雨、寒かったでしょう。さあ、暖かいうちにどうぞ」

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「そうですか。ミクお姉ちゃんとせんせいの出会いの物語をご所望ですか…。PiPiの拙い表現法でご勘弁いただけるなら、語ってみます」

 

 

 

 

(『顔の無い都市』と『帝都』の物語より 抜粋)

~~ここは『顔の無い都市』

帝大時代の先輩相澤と半月草一せんせいが、珈琲店で象徴的な茶会を終えたのは23時過ぎでした。

恒常的な電力不足のため真っ暗な『顔の無い都市』の横町に、この時間人影はなく、商店はみな死人の口のように扉を閉じていました。

 

喫茶店は、永久凍土の真ん中に放置された砦みたいに、一軒だけ営業していましたが、

いよいよ閉店となり二人は追い出されることとなりました。

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せんせいが、夜の闇にむかって喫茶店のドアを開けた途端、氷混じりの冷たい風が口を塞ぎ、心臓の鼓動まで止めてしまいそうでした。『顔の無い都市』は、実に油断なりません。せんせいは、涙をにじませたまま息を止め、体が慣れるのをしばらく待ちました。

 

                                                                                                             (相澤の代り by猫おじさん)

相澤は、これから行こうとする「ある場所」のメモを指に挟んで、

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"Hell Fire Club Dublin at Dawn" by Joe King File:Hell Fire Club Dublin at Dawn.jpg - Wikimedia Commons 

「ちょっと主人に住所を確かめてくるから、外で待っていてくれ」と言って、もう一度店内へ戻っていきました。

 

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 せんせいは、一人、静かな夜に閉ざされます。

 

 

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 清冽な夜風にあたっていると、逆にいままで居た喫茶店が異様なほど熱かったことを思い出します。むせかえるような蒸気にやられて、頭が働かなくなっていたようです。

 

 

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 やがて、粉雪が降りはじめました。小さな結晶は、戯れじゃれあい降りてきて、せんせいの肩や掌の上でカラカラ跳ねます。見上げると、暗葡萄色の夜空の下に出来た白い屋根々々、雪の精はひっそりと黒い街を塗り替えていました。彼らはどこからやって来るのでしょうか。目を凝らすと、空は底無しに真っ暗で吸い込まれそうな無限の闇です。その虚無の淵源から真っ白い雪が次々と生まれてくるのです…。

 

 ふと視線を地上へ戻すと、いつの間にか、一人の少女がせんせいの傍らに立っています。年の頃15、6のその少女もまた、手袋に包まれた両手を、かわいらしい外套の胸の前で合わせ、まるで祈りを捧げるように、あどけなく無心に空を見上げていました。

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                                                                         (『顔の無い都市』のミク  挿絵 by シンシア様(id:cynthia1))

 そして、天を眺める少女の瞳がゆっくりと地上へ舞い降り、せんせいの目と合いました。少女は一瞬笑ったように見えました。それは懐かしい、清浄な、それでいて少女らしい茶目っ気と潤いをたたえた瞳で、せんせいのここ数年間の薄汚れた退廃生活を吹き飛ばす力がありました。しかし、相澤がけたたましくドアを開けたので、ちいさな長靴の足音を残して、どこかへ行ってしまいました。

 

 相澤はタクシーを呼び止め、運転手に「『夕日の塔』へ」と命令したあと、少し険しい表情でせんせいに尋ねました。

「どうかしたか」

「なんでもありません」

 せんせいは、とっさに少女のことを隠しました。タクシーが動き出すと、すぐに少女の行った方角へ走り出しました。でも、せんせいは、新雪降りつむ暗い街のどこにも、その少女の後姿を見つけることはできなかったのです。

 

 

「今回のお話は以上です。この少女がミクお姉ちゃんで、せんせいとお姉ちゃんの最初の出会いです。先生が悪魔から誘惑を受けたために、お姉ちゃんは『顔の無い都市』の奥からでてきたんです。ミクお姉ちゃんの姿は、文字で筆記するのは難しいですね。PiPiに絵か詩の才能があればよかったのですが…」

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「いつか、『顔の無い都市』と『帝都』の物語の全編を語れればいいなあ…。でも、その前に、せんせいに『現実作り』をさせて最終大戦の決着をつけさせなくちゃ。PiPiも大変だわ!」